不動産鑑定評価の問題点20 借地権価格と借り得理論

借地権とは、借地借家法に「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。」と規定されている。借地借家法が平成4年に施行されたことにより、廃止前の借地法に伴う借地権もそのまま存続することから、多くの借地権の形態が出現している。

・廃止前の借地法に基づく借地権
・借地借家法に基づく普通借地権
・借地借家法に基づく新たな借地権
(一般定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用借地権)

私たち不動産鑑定士は、当然のこととして借地権の価格を求めることも多い。
借地借家法成立後の借地権については、成立後期間が短いことから、新規地代の設定に関する評価は多いが、売買を目的とする借地権価格の評価に当たることは少ない。未だ廃止前の借地権が成立している土地は多く、廃止前の借地権の価格を検討するに当たっては借り得理論を検討する必要がある。

借り得理論とは、借地権の設定されている土地の経済価値に対応した適正賃料(適正地代)と、実際に支払われている地代との差額(借主の借り得)が借地権価格を形成するというものである。

この借り得が借地権価格を形成すると云うことは、地代が安ければ安いほど借地権価格が高くなることを意味している。すなわち、賃貸借の当事者間の何らかの事情により、恩恵的に安く賃貸借している場合に借地権価格が高くなるということで、適正な地代を支払っている方が借地人の権利が強いのではないかという常識と異なることとなることから、法曹界及び不動産鑑定士の中にも借り得理論に違和感を持つ人達がいる。

しかし、借地権の権利としての強弱と、借地権価格の高低は異なる。借り得は借地権価格の根幹をなすものである。権利としての強弱とは、借地権が権利として対抗できるということに主眼をおいた観点であり、適正な地代を支払っている方がその権利が強いということは事実である。
適正な地代より安い地代を支払っているということは、地主側からすれば地代増額を請求する要因となることから、借地人にとっては権利として不安定となるが、しかし、逆に借り得が多く発生していることから理論的な借地権価格としては高いことになる。

借地権価格を考える場合、反対の底地をまず考えてみたい。
底地とは、不動産鑑定評価基準には次のとおり記載されている。
「底地の価格は、借地権の付着している宅地について、借地権の価格との相互関連において賃貸人に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものである。賃貸人に帰属する経済的利益とは、当該宅地の実際支払賃料から諸経費等を控除した部分の賃貸借等の期間に対応する経済的利益及びその期間の満了等によって復帰する経済的利益の現在価値をいう。」

この底地の定義に基づき、底地価格を式で示すと次のとおりである。

                    (1)

ここで、各符号の意味は、次のとおりである。

は、底地価格
は、復帰時点の更地価格
は、実際支払賃料-諸経費等(実際支払純賃料という。)
は、割引率

上記式では、割引率が一定という前提をおいているが、更に、土地価格及び実際支払純賃料に変動がないという前提を付加すれば、(1)式は、次のとおりとなる。

                   (2)

更に、実際支払純賃料が適正地代であるという前提をおいた場合は、底地価格と土地価格は等しくなる。

                (3)

すなわち、底地価格と更地価格が同じになるということは、多くの前提の上に成り立つことであり、通常は底地価格は更地価格より相当低く、借地権価格が発生していることが多い。

ここで実際支払純賃料が適正地代ではなく、それより安い地代を支払っている場合(借地人に経済的利益が発生している場合)は、次のとおりとなる。
適正地代は、であり、実際支払純賃料との差額が賃料差額とすると、底地価格は、次のとおりとなる。

                (4)

すなわち、土地価格と底地価格との開差が借地権価格を意味している。

                         (5)

(5)式の右辺が借地権価格であり、これは、賃料差額に対して、複利年金現価率を乗じたものが借地権価格の本質であることを意味している。
更に、それは複利年金現価率の逆数である年賦償還率が、借地権価格を求める場合の還元利回りに該当し、賃料差額を年賦償還率で還元した価格が借地権価格であるといえる。

すなわち、借地権価格は、賃料差額を基礎として計算される価格であり、このことが、基準で「借地権の価格とは・・(略)・・借地人に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものである。」と記載している経済的利益の論拠である。

しかし、ここまでの説明では、多くの前提を置いている。
借地権が終了した場合の将来返却される土地価格に変動がない、賃料が一定、割引率も一定という強い前提があり、現実にはこれらが一定である保証はないし、違うことが一般的だろう。
(5)式のままだと、賃料が安いほど借地権価格が高いということになり、現実とは必ずしも適合していない。
賃料が安いほど地主は地代増額を要求するし、借地権を購入しようとする買い主も当然のこととしてそのことを予想することから、地代増額を前提とした市場価格として借地権価格が認識される。
このことが、経済的利益の説明において、「・・・・経済的利益の現在価値のうち、慣行的に取引の対象となっている部分」(アンダーラインは筆者による。)と記載されていることの意味であり、一般的な借地権割合を大きく超えた借地権価格の成立は困難なものとなる。
逆に、適正地代まで行かないものの、賃料が相当程度高い場合は、借り得部分が少ないことから、借地権価格は低くなり、その場合は概ね借り得理論に基づく借地権価格が市場で成立することが多い。

理論的には、借地権価格の成立根拠は、賃料差額(=借り得)である。
しかし、私たちは借地権を鑑定評価する場合は、賃料差額に留意すると共に、実際の市場でその賃料差額を市場がどのように判断しているかを調査し、鑑定評価額を決定しなければならない。
その結果として、賃料差額が一部借地権価格を構成していないとしても、あくまでも借地権価格の発生根拠は借り得理論であり、市場調査によってその結果を鑑定評価に反映するものである。

以 上


ⅰ 不動産鑑定評価基準では、「借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以下,「賃料差額」という)及びその乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済的利益の現在価値のうち,慣行的に取引の対象となっている部分」と表現しており、市場が判断する取引の対象となっている部分を把握することが重要であり、借り得部分がすべて借地権価格を形成する訳ではない。

ⅱ 

ⅲ 借地権を求める場合の還元利回りは、理論的には年賦償還率になる。すなわち、借地権の成立する期間によって割引率より1%までの範囲で高くなるが、多くの前提に基づいているため、市場実態で還元利回りを判断する方が実務上適切である。

ⅳ 多くの前提を置いているが、前提を置くことによる単純化した方が、本質を検討するためには有益である。
本質を理解した上で、市場実態を調査して実務に生かすのが実務家であり、借り得理論が借地権価格を構成しないということは、本質論を無視している。

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